著者: エイム研究所 矢野 弘
●問題意識を持てとは、問題そのものに疑問を持つなと同じ
「問題意識を持て!」とよく言う人がいる。昔から多くの本にも書かれている。確かに聞こえの良い言葉だが、言われた側の人はこの言葉で感銘を受けたことがないと思う。
なぜでしょうか……。
今は必ずしもそうとは言えなくなったが、アルバイトや派遣社員の人たちのようにマニュ
アルに従って日々の仕事が繰り返し作業のような場合は、マニュアルに従うのが「良し」となる場合が多いので、問題意識を持ってもらうということは「標準は間違っているかもしれない」ということになる。
変える権限を持っていないで問題意識を発揮すると、問題提起だけになる。提起ばかりさ
れると、それを受ける社員は問題を多く受け取り、こなしきれなくなる。すると、こなしきれないという問題になるので、問題意識を持たずマニュアルに従えと教育することで落ち着く。
管理監督者の場合は日々の仕事の中で、少しでも異常があると、異常のすべてが問題となる。製造ならば部品が入ってこなくて生産できないとか、営業ならばお客さまから苦情を言われるなどはすべて問題である。
ない方が良いが、大抵の会社では問題が多く発生している。
あまりにも問題だらけの所で、問題意識を持てと言われても意識どころか体験をしている真っ最中なので、この言葉はくどい文句になる。
繰り返し似た問題が発生すると、対応するだけで精いっぱいで再発防止の改善どころではない。
この状態で、助けを求めている人たち(部下)に対して「問題意識を持て」では、おぼれ
ている人に「流れより速く上流に向かって泳げ、ガンバレ!」と声だけを掛けているのと同じである。
よくあるのが「とにかく問題を発見したら、『なぜ5回』で真因を突き止め、解決する手
段を取りなさい」となる。
●悪いところを直すと普通になるだけ
問題意識を持つ前に、大切なことがある。それは日々の行動には必ず目的があるはず。目
的を持たずして問題意識を持つと、悪い所を見つけるあら探しになり、解決をしても、良くなるのではなく元に戻る。というより普通になるだけで終わる。
これならまだ良いが、目的なしで手段のみハッキリさせて問題をそれに合わせて創造することが会社の中で多くある。それは、今はやりのキーワードを当てはめて、あたかも特効薬のように解決するように問題提起することである。
インターネット、JIT(ジャストインタイム)、S M C (サプライチェーンマネジメント)、キャッシュフロー、シックスシグマ、ISO9000・14000、ちょっと前では顧客第一主義、TQC、TPM、古いのではFA化、CIM化、自動倉庫、無人搬送車、パソコン、マイコンなどなど。
手段が先で、これに当てはまる問題をつくり上げて、あたかも解決するようなことをすると、手段が目的になってしまう。はやりのキーワードでマスコミに大きく発表して、あたかも大きな効果が出たかのように装うと後に引けない。話題性中心で、コトに当たる企業文化ができてしまう。
●キーの前にロックを探せ
目的 → 課題 → 手段のストーリーでいくと、部屋 → 錠の付いた扉 → 鍵の順番になる。つまりキーワード(鍵)の前に見つけるものがある。
どの扉を開けて次の場所に行きたいのか、その目的と、それを実現するために取り組む課題は何なのかである。この課題がロック(錠)で、課題を文字にしたものをロックワードと言う。
たとえば、
目的 → 気に入っていただけるお客さまを多く得たい。そして評価してもらい改良したい
課題(ロック)→ 多くの潜在顧客に宣伝し、知ってもらい評価を直接得たい
手段(キー) → インターネットを使いホームページで販売して、意見もブログに書いてもらおう
となる。
これがキーワードが先だと、インターネットを使って何かできないか……となる。使うことが優先になり、目的が何か分からなくなり、どこに向かっていくやら。
●扉を開ける手段は何通りもある
扉に付いている錠(ロック)を見ずに、鍵(キー)をやたら持って突っ込んでも開きはしない。まず、どのような錠なのかよく調べないといけない。この調べる行為が分析力で、この分析により課題が明確になる。
生産現場などでよく活用するQC7つ道具や時間観測、標準作業票、組み合わせ票、流
れ線図、PQ分析、工程経路図などもすべて課題を明確にするための分析の手段である。
これらは改善案そのものでもないし、解決する手段である鍵(キー)ではない。
分析後に、改善する手段を工夫する。扉を開ける手段は錠に合う鍵であったり、マスター
キーであったり、ドライバーでこじ開けたり、内側から歓迎されて開けてもらったり、映画でよく見るシーンでは足でけ飛ばしたり体当たりしたり、ピストルで壊したりと、いろいろな手段で開けることができる。開けるだけの解決手段は一つではない。